理事長からのメッセージ

理事長からのメッセージ

当クリニックの井尾 和雄理事長のメッセージをご紹介いたします。

理事長 井尾 和雄

20年間の在宅緩和ケア実践からの将来予測

 2019年12月に中国武漢から始まった新型コロナ感染症:COVID-19の大津波は欧米を襲い、日本にも到達し、アジア、インド、アフリカ、南米、オーストラリア等世界中に押し寄せています。これからも感染は広がり多くの犠牲者がでて、ワクチン、治療薬の登場で普通の病気として教科書にも載る感染症になっていきます。
第2次世界大戦以降、局地的な地震、津波、台風、洪水、大火災、噴火などの自然災害以外には、世界中の人間が「死」を身近に感じ、恐怖を感じたことはないと思います。人間は常に死と隣合わせで生きています。死の原因は様々で選択は出来ませんが100%です。

 日本は世界で初めて新型コロナ感染症以上の未曾有の危機に直面しています。それは「超高齢多死社会」の到来です。日本の2018年の年間死亡数は136万9000人です。団塊世代が75歳の後期高齢者になる2025年から鰻登りに増えピーク時には約170万人となります。東京都の2018の年間死亡数11万9253人ですが今後増え続け、異常事態となることは明らかです。

 病院で癌死した父の死が動機で2000年2月に在宅緩和ケア専門クリニックを開業して、この20年間で3670人(2020年4月末時点)の患者さんを自宅で看取ってきました。この20年間で日本の高齢多死社会は進み、老老世帯・独居世帯の増加は止まりません。特に東京での増加は深刻な状況です。癌、非癌に関わらず人は100%死を迎えます。急性死は時間も場所も選べず救急搬送、延命処置、検死になることは致し方ありません。癌、慢性心不全、慢性呼吸不全、慢性腎不全、認知症、難病、老衰などの終末期は自分の最期を考えておくことも、場所を選択することも可能です。選択できる施設は療養型の病院、特養・老健などの老人施設、介護付きの住宅等、そして自分の家です。

 国は増え続ける年間死亡数に対応するために地域看取りを増やす「地域包括ケアシステム」の構築にたどり着きました。地域の自治体と医師会が連携して介護、看護、医療を提供し「地域緩和ケア」「地域看取り」を推進していく制度です。しかし東京、首都圏では死にゆく高齢者をビジネスチャンスと捉えた医療・看護・介護事業所、高齢者住宅等だけが増え続けています。最期まで看取る理念も覚悟もないため、地域看取りは増えることなく、孤立死、救急搬送、延命治療入院だけが増えているのが実情です。

 増え続ける老老世帯、独居世帯、介護者不在の現状から「地域看取り」も団塊世代が後期高齢者となる2025年以降は困難になると予測されます。最大の問題は「介護者不在」です。特に衰弱し「動けなくなる」「トイレ移動困難」時から亡くなるまでの1ヶ月間が問題です。

 「地域看取り」を達成するには24時間巡回訪問介護、最期まで看ていく訪問看護、死亡診断まで診ていく「地域緩和ケア」を提供する在宅医療が必須です。しかし、増え続ける後期高齢者に対し自宅を訪問して最期まで心ある介護・看護・医療を提供する人材は増えてはいません。

 今後20数年は想像以上の介護者不在になること、在宅ケア関連の人材不足が加速すること、最期は家族に迷惑をかけたくない方々が多いこと、介護する家族の疲労・不安も強いこと、安心して最期を過ごせ場所を望まれる方々が多い事実があります。以上のことから将来の日本には最期の1ヶ月を預かり手厚い介護・看護・緩和ケアを提供し平穏死・尊厳死・満足死が実現できる施設が必要になると予測しています。また、これまで以上の「地域看取り」を達成するには24時巡回訪問介護の充実が必要になると予測しています。

以上がコロナ大騒動で講演、研修、学会、懇親会、各種イベント、ゴルフコンペ等が中止となり外出自粛の中じっくり考えた20年間の経験から導かれた将来予測です。人々の希望が叶う国になること願っています。

2020年5月
立川在宅ケアクリニック
井尾和雄

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